
コラム
COLUMN
犬や猫の肝臓病|症状が出にくい肝臓の異常と早期発見のポイント
2025.03.25犬・猫
犬や猫は言葉を話せないため、体調の変化に気づきにくいことがよくあります。その中でも特に注意が必要なのが、症状が現れにくい「肝臓病」です。一見元気そうに見えても、肝臓の機能が低下していることがあり、飼い主様が異変に気づいたときにはすでに病気が進行しているケースも珍しくありません。
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、初期のうちは症状が出にくい特徴があります。しかし、健康診断を活用することで、肝臓病を早期に発見することが可能です。
今回は肝臓病について、基礎知識や症状、診断方法、治療・管理方法などを詳しく解説します。
■目次
1.肝臓の基礎知識
2.肝臓病の種類
3.肝臓病にかかりやすい犬や猫の特徴
4.主な症状と早期発見のポイント
5.健康診断による発見
6.診断方法
7.治療方法・管理方法
8.予防と日常のケア
9.まとめ
肝臓の基礎知識
肝臓は、体の代謝や解毒を担う重要な臓器です。具体的には、以下のような役割を持っています。
<栄養の代謝と貯蔵>
食事から摂取した栄養素を分解・合成し、必要に応じてエネルギーとして利用できる形に変えます。
<有害物質の解毒>
体内に入った毒素や不要な老廃物を分解し、排出する働きをします。
<胆汁の合成と分泌>
胆汁は脂肪の消化を助ける重要な成分で、肝臓で作られて胆のうに貯蔵されます。
これらの機能が低下すると、栄養の利用や老廃物の排出がスムーズに行えなくなり、全身にさまざまな影響が出てしまいます。
肝臓病の種類
犬や猫がかかりやすい肝臓病には、以下のようなものがあります。
<慢性肝炎>
肝臓に炎症が長期間続く病気で、ウイルス感染や自己免疫異常、代謝異常などが原因となります。
<門脈体循環シャント>
小型犬に多い先天性疾患で、腸から吸収した栄養が肝臓を通らずに全身を巡ってしまうため、解毒が正常に行えなくなります。
<脂肪肝(肝リピドーシス)>
肥満の猫に多く見られる病気で、肝臓に脂肪が過剰に蓄積され、機能が低下します。
<肝臓の腫瘍>
良性腫瘍(肝細胞腺腫)や悪性腫瘍(肝細胞癌など)が発生し、肝機能を低下させます。
肝臓病にかかりやすい犬や猫の特徴
肝臓病はすべての犬や猫に起こる可能性がありますが、特に以下のような個体では発症リスクが高くなります。
<年齢による違い>
前述したとおり、若い犬では先天性の病気(門脈体循環シャントなど)が、シニア期には慢性肝炎や腫瘍が発生しやすくなります。
<品種による傾向>
ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアやドーベルマンなどは慢性肝炎の発症リスクが高いとされています。
<生活環境の影響>
肥満やストレス、低タンパクの食事を続けることで、肝臓に負担がかかり、病気の発症リスクが上がります。
主な症状と早期発見のポイント
肝臓は、多少のダメージを受けても機能を補い合う「予備能力」が高いため、初期段階では症状が現れにくい臓器です。そのため、飼い主様が異変に気づいたときには、すでに病気が進行している可能性があります。
肝臓病の初期には、以下のような変化が見られることがあります。
・なんとなく元気がない
・食欲の低下
・下痢や嘔吐が続く
・体重が減少する
病気が進行すると、以下のような症状が現れます。
・歯茎や白目の部分が黄色くなる(黄疸)
・お腹に水がたまり、膨らむ(腹水)
・意識がもうろうとし、ふらつく(肝性脳症)
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健康診断による発見
肝臓病を早期に発見するために最も大切なのが健康診断です。見た目は元気でも、血液検査をしてみると肝臓や腎臓の数値が高く、詳しく調べるうちに肝臓病や腎臓病が見つかることも少なくありません。
<血液検査でわかること>
血液検査には、大きく分けて「CBC(血球を調べる検査)」と「血液生化学検査(ミネラルや内臓の状態を調べる検査)」の2種類があります。これにより、見た目ではわからない体の中の異常を発見することができます。
<定期的な健康診断のメリット>
健康診断は、一度だけではなく定期的に受けることが大切です。何度も検査を行うことでデータが蓄積され、愛犬や愛猫にとっての正常な基準値がわかるようになります。その結果、異常値が出た際にすぐに対応できるだけでなく、高齢に伴う体の変化にも早く気づくことができます。
また、これから春にかけてはフィラリア予防やワクチン接種のシーズン です。このタイミングで健康診断を受けることで、病気の早期発見につながるだけでなく、フィラリア予防薬を安心して投与するための健康チェックも同時に行うことができます。
フィラリア予防薬を安全に使用するためには、事前の血液検査が欠かせません。フィラリアに感染している状態で予防薬を投与すると、副作用を引き起こすリスクがあるためです。また、フィラリア症自体も肝臓に影響を与える病気です。感染が進行すると、肝臓や腎臓に負担がかかり、重篤な状態に陥ることがあります。 そのため、フィラリア検査の際に肝臓や腎臓の健康状態を確認することで、より総合的な健康管理につながります。
診断方法
肝臓病の診断には、以下の検査が有効です。
<血液検査>
肝機能に関わる数値を測定し、異常の有無を確認します。
<超音波検査>
血液検査で異常が見られた場合、超音波検査に進みます。検査では、肝臓の形や内部の状態を確認し、炎症や腫瘍の有無を調べます。
これらの検査以外にも、必要に応じて、X線検査やCT検査、組織生検を追加することもあります。
治療方法・管理方法
検査の結果、肝臓病があるとわかった場合、当院ではまず食事管理の見直しから始めています。具体的には、普段食べているフードの種類を変更したり、おやつを控えたりしたうえで、再度検査を行い、改善の有無を確認します。こうした対策でも症状が改善しない場合は、以下のような治療を行います。
<投薬>
肝機能をサポートする薬を使用し、症状の進行を抑えます。
<サプリメントの活用>
肝臓の健康維持に役立つ成分を補給します。
また、治療の効果をしっかり確認するためには、定期的な動物病院での受診と検査が必要です。愛犬や愛猫の健康を守るためにも、継続的なケアを心がけましょう。
予防と日常のケア
肝臓病を防ぐためには、定期的な健康診断が欠かせません。当院では、シニア期に入るまでは年に1回、シニア期以降は年に2回の健康診断をおすすめしています。
また、健康を維持するためには、ご家庭でのケアも重要です。普段の食事は総合栄養食をベースに適量を与え、適度な運動や遊びの時間を取り入れることで、肝臓への負担を軽減できます。
さらに、肝臓の機能が低下すると、腹水の貯留や肝性脳症につながるリスクもあります。もし、食欲不振や元気がないなどの初期症状が見られた場合は、早めに動物病院を受診することが大切です。
まとめ
肝臓病は症状が現れにくい病気であり、気づいたときにはすでに進行していることも少なくありません。ご家庭での様子だけでは異常に気づきにくいため、定期的な健康診断を受けることが、早期発見・早期治療の鍵となります。
特に、春はフィラリア予防やワクチン接種のシーズンです。この機会に、健康診断もあわせて実施し、愛犬・愛猫の健康状態をしっかり確認することをおすすめします。
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この記事を書いた人

- 永原動物病院 院長
- 永原 未悠(ながはら みゆ)
飼い主様へのインフォームドコンセントや、信頼関係を大切にしています。大事な予防も含め、疾患(病気)への治療や方針について話し合い、飼い主様と一緒に進めてまいりたいと思います。
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